「この生は受け入れがたし」総括その③

まちだです。

劇団words of hearts第18回公演「その生は受け入れがたし」を振り返っています。その第3弾、最終回です。ちなみに使用している解放感にあふれている写真は打ち上げのときのものです。

劇場に場所を移したのが4月23日(火)。僕は夕方から入ったのですが、敏腕舞台監督の下、既に素敵な舞台が出来上がっていました。上手(客席から見て右)は応接セット、下手(客席から見て左)は研究員の事務作業をする場所(円形のデスク)という設えにしました。4色に分けた円形のデスクの上には役柄の個性を出したくて俳優の私物を置いてもらいました。結果WOHにしては珍しくシンプルでありながらカラフルなセットとなりました。(写真・高橋克己)

音響に関しては、登場人物の会話の繊細さを際立たせるために劇中ではラストの一曲のみ。プラスして開場中に架空のラジオ番組、FM津軽「ケッパレいちひめ」を流しました。実は台本の指定で開場している間も既に俳優が登場し小さなやり取りをしているのです。その間に流れているのが「ケッパレいちひめ」でした。パーソナリティが津軽弁を喋るという設定の番組だったのですが、これによりこの場が東北地方であることを示す目的で制作しました。劇場入りしてからの作業をしてもらったので割と突貫だったのですが、お客様から非常に評判が良かったです。「もっと聞きたかった」というお声も頂き、嬉しい限りです。ちなみにラストの曲は、弟君にバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」をイメージした感じの曲でお願いしました。

照明も舞台ではこだわる要素の一つです。今回は可能な限りリアルな時間経過を表現したくて、「窓から差し込む午後3時から5時までの(上映時間は70分)日の光の変化」というオーダーをしました。要するに開演してから終わりまでずっと照明は変化して、ラストシーンでちょうど夕焼けになっているように計算して頂きました。おかげで赤橙色の美しい感動的なシーンが出来ました。ラストに温かみを感じて頂けたお客様も多かったようです。

衣装も今回は至ってシンプル。かなりの割合で俳優の私物をお借りして賄いました。それでも登場人物の個性が強く出ていたように思います。特にプーチンの場合はピンクのパーカーに白衣という格好だったのですが、照明で舞台上は暑く、彼は始まる前から汗だくでした。そこで急遽、白衣の下はピンクのTシャツに変更しました。従ってプーチンのパーカー姿が見られたのは1回目のみ。ある意味プレミアですね(笑)。

こうして多くの方々の協力を得て本番を迎えました。お芝居的には本当に素晴らしかったと自画自賛しています。舞台上で大きな事件は起こりません。淡々と日常が流れていく中にちょっとした歪みが生じる程度です。もしかしたら無視しようと思えば出来る程度の歪です。でも人の心は敏感にそれを察知します。一歩間違えたら総崩れになりかねないこの繊細なお芝居を、俳優陣は全身全霊で取り組んでくれました。それは70分という決して短くはない時間を、じっと息をのむように見つけてくれていたお客様の反応からも証明できるでしょう。何気ない日常を目を離さずに見つめている。ある種の背徳感も相まって、あの揺らぐことさえためらわれるような劇場内の空気感はなかなか味わえるものではありません。

合計6公演。全員で駆け抜けました。先ずは無事に公演を終えられたことが何よりの喜びです。個人的には課題もたくさんありましたが、同じくらい成果も得られました。有意義な時間だったと言えると思います。ここで得たものを糧に、10月の「博士と過ごした無駄な毎日」(再演・コンカリーニョ)に向かいたいと思います。

最後に。この演目と出会ってからずっと心に引っかかっていた「寄生虫」の役割について。ここで描かれている寄生は相手から搾取することではなく、「寄り添って生きる」という意味合いなのではないかと思っています。お互いを信頼し寄り添う。信頼できる相手ではければ寄り添うことはできません。向き合うだけじゃなく、ときには思い切って寄り添うことも人間関係の構築には大切なのではないか。その象徴として「寄生虫」が使用されていたのだと解釈しています。

これでホントに最後。多くの方々に支えられて僕はこうして活動ができています。本当に感謝しかありません。願わくば、もうしばらくお付き合いして頂けるとありがたいです。創作する側であれ、お客様であれ、共に舞台を愛する仲間として。これからもよろしくお願い致します。

劇団words of hearts代表 町田誠也

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